被災後を生きる。このことを、私たちはどれほど考えられてきただろうか。気候変動による自然災害が増加し、誰もが被災する可能性が高まる現在、防災・減災への意識は高まっている。しかし、その意識は未然に防ぐことか、災害直後にどうすべきかに向けられている。被災経験のない人々は、災害を生き残り、その後も続いていく長い生活のことはほとんど想像していないのではないか。
東日本大震災は、2021年に10周年を迎えた。巨大なかさ上げ工事がなされて、もとの土地が跡形もなくなる。多くの人々が別の土地へ移転し、場合によってはコミュニティが離散する形となって、新たな営みが構築されている。このようなプロセスは、災害未経験者にとっては、被災地特有のものとして、あるいはどこか遠い地の出来事や物語だったような気がする。
ただ、増加傾向にある自然災害、とくに度重なる水害は、同様の事態に直面する地域を、毎年確実に生み出している。つまり、すでに被災した地域の(数年から数十年にわたる)歩みは、これから経験するかもしれない「近未来」だと言える。
このリサーチでは、北海道奥尻島、岩手県陸前高田市、岡山県真備町、宮城県丸森町という4つの地域の2年~30年にわたる「被災後」に注目する。チームは、東日本大震災直後から陸前高田を見つめ続けてきたアーティストの瀬尾夏美を中心に、建築家や小説家などで構成する。そして、これら地域が、住民の生活や生業はもちろん、風景を形づくる地形や生態系も含めどのような変遷を辿ってきたのかを、丁寧に見直していく。小さな出来事の観察から見える各地域の近過去は、近未来のイマジネーションに大きな示唆を与えてくれることだろう。
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東京は、これまで成長し続ける都市モデルに合わせて、飽きずに開発を繰り返してきた。一般的なビルの寿命は約40~50年。ちょうど今寿命を迎えつつある建物は、高度経済成長期を経て、バブル前夜の頃にできたことになる。
つまり、これまで通りならば、四十歳過ぎの私たちが幼い頃に見ていた風景が、そろそろ消えていく時期になる。巨大再開発の対象になる超都心部や、フォトジェニックな保存したい街並みではなく、単に目を向けられてこなかった風景は、このまま消えていくのだろうか。そう思って、歳が近い人たちで、東京と聞いて思い出す、記憶に長く留まっている風景を歩いてみることにした。
リサーチャーのひとりである小説家の温又柔さんは、3歳のときに台湾から日本へ家族で移り、東京で育ち、今も住んでいる。当たり前だが、日本にいる外国人と一口に言っても、勉強や出稼ぎのために一時的に滞在する人もいれば、長く住み続ける人もいる。東京に長く——ほぼ四十年——住む、外国人の温さんは、今の東京をどんなふうに見るのだろう?
それがこのリサーチの出発点となった。
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香りは記憶を想起させるメディアだ。同時にとても即物的なものでもある。どんなものにもある程度の香りがあり、生物だけでなく土や水といった無機物も、土地特有の香りを発する可能性をもっているという。
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