Scenes of New Habitations

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住むの風景

写真詩集『New Habitations: from North to East 11 years after 3.11』刊行

柴原聡子, 瀬尾夏美, トヤマタクロウ, 米山菜津子

どこまでも広くて、青々とうつくしい
破壊のあと、その分厚い手で立ち上げてきたのは
誰にも思いも寄らなかった風景


東日本大震災から11 年目に撮られた写真と、
11 年の間に語られた土地の言葉。
被災地の現在と過去が織り成す、「あたらしい風景」。

写真詩集『New Habitations: from North to East 11 years after 3.11』刊行

© Takuroh Toyama

この度、「住むの風景」初の書籍、『New Habitations from North to East: 11 years after 3.11』(写真|トヤマタクロウ、詩|瀬尾夏美)を、YYY PRESSより刊行することとなりました。9月下旬より、全国の各書店や通販サイト等で販売する予定です。
このプロジェクトで岩手県北を旅していた時に、瀬尾さんと何か作れないかと話してから約1年半。写真家のトヤマタクロウさん、デザイナーの米山菜津子さんたちと旅を重ねて、一冊の写真詩集が生まれました。ぜひお手に取ってご覧いただければ幸いです。

『New Habitations from North to East: 11 years after 3.11』
写真|トヤマタクロウ
詩|瀬尾夏美
装丁|米山菜津子
編集|柴原聡子
翻訳|大久保玲奈、サム・ベット

YYY PRESS刊
言語 日本語(一部日英併記)※本編の詩の英語版別紙も一部発行予定
上製 312 頁 横188 × 縦263 mm
定価=本体5,500 円+税 ツバメ出版流通取扱 
ISBN 978-4-908254-10-9 C0070 ¥5500E

Outline of the Book

2011年に起きた東日本大震災から11年。東北沿岸部の被災地はこの間に、巨大な防潮堤をはじめ、嵩上げや高台の造成を行い、「あたらしいまち」をつくり上げてきました。同時に被災し、一斉に行われた大規模復興工事は、一見すると似たようなまちなみを各地に生み出しています。しかし、ひとつ一つに目を向ければ、土地土地で営まれてきた人の暮らしの痕跡があり、それらは微かな違いとして風景に現れています。

アーティストで詩人の瀬尾夏美は、東日本大震災以降、岩手県陸前高田市をはじめ、近年増え続ける自然災害の被災地を訪ね、土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら絵を描き文章を書いています。2022年、彼女はこれまで飛び石的に訪れていた被災各地を歩き直した軌跡を一冊の本にまとめることにしました。そして、写真家のトヤマタクロウが、2022年秋から2023年春にかけて岩手県北部から茨城県中部までを点と点を結ぶように辿り、各地の今の風景を収めました。

数回に分けて行われた撮影の道程は、700キロメートルに及びます。ある時は共に、ある時は個々に、二人のアーティストは被災した地を訪れ、そこで見聞したものを写真と言葉にしました。対象から一定の距離をとる旅人の視点で撮られたトヤマの写真に、震災後11年をかけて瀬尾が聞いてきた土地の声が編みこまれた本書には、現在と過去、遠さと近さが複雑に交差していく、幾重もの層が表れています。各地の微かな違いのなかから立ち現れる「あたらしい風景」を、ぜひご覧ください。

地面が迫って、山は確かに低くなり、空は近くなった
あたらしいまちは、まだ使い熟されてはいない感じがする
でもそんなことは構わずに、うつくしさはここにある
風景のうつくしさはどこにあるのかと考えていたけれど
もしかしてそれはただ、光のことだったのかな

どこまでも広くて、青々とうつくしい
破壊のあと、その分厚い手で立ち上げてきたのは
誰にも思いも寄らなかった風景

どの選択をした人の気持ちもわかる気がするんです
複雑で、難しく、とても繊細な時間でした
わたしも11年間帰れなかった
そのひとりなので

わたしはこの地面で生まれましたが
父や母はこの下で暮らしてきたのだといいます
わたしにとってはここがふるさとですが
ふたりにとっては、このまちの大人たちにとっては
この下にあるもの、かつてあったものこそが
ふるさとなのだといいます

(瀬尾夏美の詩より)

トヤマタクロウ
写真家。1988年宮崎県生まれ、神奈川県在住。2010年頃より個人的な出来事の記録のために写真撮影を開始。2012年に個展を開催後、作品展示や写真集の制作を軸に活動。美術、音楽、ファッションなどの分野を中心にコミッションワークも行う。写真集に『Sight』(2018)、『DEVENIR』(2021)等。展覧会に『DEVENIR 2022/11/11-11/27』(本屋青旗、2022)等。

瀬尾夏美(せお・なつみ)
画家、作家。1988年東京都生まれ、在住。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。東日本大震災を契機に岩手県陸前高田市に移住し、映像作家の小森はるかとの共同制作を開始。以降、宮城県仙台市、丸森町に一時暮らしながらリサーチと制作を行う。著書に『あわいゆくころ 陸前高田、震災後を生きる』(2019)、『二重のまち/交代地のうた』(2021)等。