Scenes of New Habitations

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住むの風景

都心の夢

柴原聡子

都心の夢

©Eisuke Asaoka

今日は番外編の散歩。温さんと朝岡君と3人で歩くことにした。思い付くまま築地で待ち合わせて、明石町にある江戸末期の築地外国人居留地跡地に行ってみる。私の母校(中高)が最初にできたのも築地なのだそうで、この辺りはミッション系の学校がたくさんあったらしい。公立の学校も、だいぶ後に建てられたものだとは思うが戦前の建物で風情がある。超都心の公立小学校のわりに、生徒は多い印象。聖路加病院と言い、ここら辺の建物はそこまで高くなく少しほっとする。私が敬愛する『美味しんぼ』の山岡さん(結婚前)の住まいもこの辺りだ。

都心の夢

©Eisuke Asaoka

そこから、温さんの発案で急遽お台場に行くことにする。経路を調べると豊洲で乗り換えとあり、ちゃんと豊洲に行ったこともないので立ち寄ることにした。ニュースで見知るようなとんでもないタワーマンションが乱立する中、いわゆる都営住宅的なものも多く建っている。子どもが多く、小学校や保育園も多い。そして、歩いている人、チャイルドシートをつけた電動自転車で爆走するママさんたちなど、年齢層が明らかに若い。最近は横浜の実家に帰るたびに「高齢者が多いなあ」と思うのだけれど、ここではそんなことはないようだ。

途中でテイクアウトのコーヒーを買ったので、歩けるところまで歩こうとお台場方面へ進む。突然人気がなくなり、道路の幅もよりいっそう広くなった。周囲には高層マンションがたくさんある。家族構成まではうかがえないが、人が住んでいるからマンションがあるわけで、こういったところに住む感覚はどんなものだろうと、つい想像する。外で遊ぶところもなさそうだし、第一お店が極端に少ない。先日訪れたいわきでも、新しくできたまちにお店が少ないと思ったが、こういうのはニュータウンの特徴なのだろうか。同世代で、ずっと市ヶ谷付近の都心で育った友人の幼少期の話を思い出す。彼女はとにかく放課後に外で遊ぶ場所がなかったと言っていた。虫もいないし、川もない。雑草が生えてる空き地もない。彼女の妹はたまたま学校の校庭だかで見つけたかまきりを「ペットにする」と言って大事に家に持ち帰ったという。散歩に憧れて、かまきりに糸をつけてその先端を持ち、家の廊下で犬のように散歩をさせた。まだ小さかった妹は足がもつれてしまい、うっかりかまきりを踏んでしまった。かまきりは死んで、妹はたくさん泣いた。そういう話だった。

ちょっと疲れたので、ゆりかもめに乗ってお台場海浜公園まで行く。途中まで歩いた有明とは違い、私たちが大学生だった頃のままのような風景で、時間の感覚が狂う。天気は快晴。海の向こうにビル群があるのは奇妙だが、雰囲気は湘南みたいだ。平日の昼下がりなのに、わりと人もいてデートで来ているらしい男女も多い。それでも、周囲にはそこかしこに再開発の気配があり、あった建物や観覧車を壊し、また新しい何がしかの施設を建てようとしている。その中で、かつて最先端だったはずの建物たちは年を重ね、いささか居心地が悪そうに見える。いずれ真新しい施設ができたら、これらは単に古いものとして淘汰されていくのだろう。やっぱり海辺にはヤシの木が植わっていて、テラスにはパラソルが畳まれた簡易テーブルと椅子があり、和製サーフミュージックが流れている。すでに2階は閉店してしまったらしい案内所兼レストハウスでは、ソフトクリームやフライドポテトを売っている。20年ほどでここまで懐かしい感じになることを不思議に思う。

そのまま海岸沿いを歩く。遊覧船の乗り場を超えると、当時からおかしいなと思っていたミニチュアの自由の女神像が現れた。外国人観光客らしき人たちが熱心に写真を撮り合っている。目の前にはレインボーブリッジがあり、時刻は日の入りで、テーマパークみたいな〇〇風の完成度が良しとされたかつての最先端をまた思い出す。今は亡きヴィーナスフォートはその最たるものだった。

この日、最初に訪れた外国人居留地跡がにぎわっていた頃は、豊洲も晴海もお台場も海だった。かつての海をずんずん進んで最後に休憩しようとお台場で入ったのはハワイ発祥のハンバーガーショップだ。何もかもが非現実的で(ぎりぎり日がある時間にビールを飲んだからかもしれない)、同行した朝岡君が夢のような現実の話をしてくれて(会場を間違えて違うライブに行ってしまい、しばらく見た後に気づいて出てきた話)、そんな話をしている今が夢を見ているようだと思った。ひとしきりおしゃべりを楽しんだら、いつの間にか店内の窓際席が埋まっている。レインボーブリッジの夜景がばっちり見えるからだった。橋の向こうに東京タワーが見えて、これまた嘘みたいな風景だと思ったけれど、きれいだった。

温さんとゆりかもめに乗って新橋まで帰る。普通の電車より小さなモノレールは、あちらとこちらをつなぐ感じがして、別世界から帰ってきたことを強く感じさせた。埋め立てた人工の土地の上に、テーマパーク的な世界ができること自体は不自然ではない。でも、そこに実際に「住む」人たちがいることを考えると、彼らの日常とはどんなものだろうと考えてしまう。たぶん、自分たちと変わらない生活なのだろうけれど。

都心の夢

©Eisuke Asaoka