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住むの風景

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歩く風景

人の記憶は頭の中にあるのではない、それは風景の中にある――。
人の目を通して記憶・記録される風景は、土地の歴史の蓄積であると同時に、個人の記憶を呼び起こすトリガーでもある。それは、過去と現在をつなぐ一つのツールだ。中でも「歩行」という、より個人の身体につながる運動を通して見る風景は、上空からの俯瞰とも、自動車や列車の車窓とも異なる、個人の思考やひらめきに直結するものとして、多くの創作や思索を生み出してきた。歩くことの創造性は、レベッカ・ソルニットの『ウォークス 歩くことの精神史』で語られている通りだ。
一方、東京をはじめとする東アジアの都市部においては、絶え間ない開発により、日本では約40年、中華圏になると早いところは20年ほどで建て替えられ、風景は短期間に変化する。これが、社会が土地の記憶を忘却することにもつながっていると言えよう。しかし、アジア地域は戦後から近過去まで激動の歴史を辿ってきた。とりわけ近隣に位置する韓国では1987年に民主化宣言が発せられ、台湾では同年まで戒厳令が続き、その後急激な都市化が進んだ。つまり、現在のように高層ビルが立ち並ぶ風景になってから30~40年しか経っていないが、隙間には今も過去の片りんが残っている。

「歩く風景」は、瀬尾夏美(東京)、温又柔(台北)、パク・ソルメ(光州)と、出自の異なる3人の女性アーティストが、東京ともう一つ場所を歩き、土地の風景を通して戦後史と今を結び、表現を媒介として語り継ぐ試みである。

主催:株式会社soon
参加作家:温又柔、瀬尾夏美、パク・ソルメ
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京[スタートアップ助成]

開催日程:
2025年5月:台湾リサーチ&ワークショップ(温又柔)
2025年6月:東京リサーチ(パク・ソルメ)
2025年8月:釜山リサーチ&ワークショップ(瀬尾夏美)
2025年12月:参加作家による朗読パフォーマンス+公開シンポジウム @東京(場所未定)

被災後を生きる

被災後を生きる。このことを、私たちはどれほど考えられてきただろうか。気候変動による自然災害が増加し、誰もが被災する可能性が高まる現在、防災・減災への意識は高まっている。しかし、その意識は未然に防ぐことか、災害直後にどうすべきかに向けられている。被災経験のない人々は、災害を生き残り、その後も続いていく長い生活のことはほとんど想像していないのではないか。

東日本大震災は、2021年に10周年を迎えた。巨大なかさ上げ工事がなされて、もとの土地が跡形もなくなる。多くの人々が別の土地へ移転し、場合によってはコミュニティが離散する形となって、新たな営みが構築されている。このようなプロセスは、災害未経験者にとっては、被災地特有のものとして、あるいはどこか遠い地の出来事や物語だったような気がする。

ただ、増加傾向にある自然災害、とくに度重なる水害は、同様の事態に直面する地域を、毎年確実に生み出している。つまり、すでに被災した地域の(数年から数十年にわたる)歩みは、これから経験するかもしれない「近未来」だと言える。

このリサーチでは、北海道奥尻島、岩手県陸前高田市、岡山県真備町、宮城県丸森町という4つの地域の2年~30年にわたる「被災後」に注目する。チームは、東日本大震災直後から陸前高田を見つめ続けてきたアーティストの瀬尾夏美を中心に、建築家や小説家などで構成する。そして、これら地域が、住民の生活や生業はもちろん、風景を形づくる地形や生態系も含めどのような変遷を辿ってきたのかを、丁寧に見直していく。小さな出来事の観察から見える各地域の近過去は、近未来のイマジネーションに大きな示唆を与えてくれることだろう。